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「いちばんがーにばんのー肩を揉むー」

淑乃はこれ以上無いほどつまらなそうな顔で言った。事実、つまらない。片や銘を受けたいちばんとにばんは雄叫びをあげたり頭を抱えたりで騒々しい。それも何処吹く風と、テーブルに置かれた苺大福をまた一つ手に取り齧る。

「なんでさっきから淑乃ばっかり王様なんだよ!」

雄叫びモードから帰還した大の主張は至極最もだったが、「それより三人で王様ゲームって何が楽しいのかしら」と傍らで成り行きを見守っているララモンの心の声はそれ以上の正論だった。

事の発端はトーマの「王様ゲームとは、何ですか?」という一言だった。その無知は文化の違いによるもので、説明より実践!と何故か大が鼻息を荒くしたので、淑乃は先端に番号を振った割り箸を三本構えてやった。「王様はこの苺大福を一つ食べて、更に一番と二番に命令をするのよ」淑乃が説明したルールに大は一瞬首を傾げそうになったが、「わかりました」と至って冷静なトーマにつられてその首をそのまま縦に振った。そして淑乃にとってはかれこれ三つ目の苺大福である。
命令を二人が遂行している間に割り箸を構え淑乃が一番最初に引き、それが王様の証。割り箸を用意したのも先の通り淑乃本人である。(どんだけ馬鹿なの、この二人)途中で暴かれるのを見越してこの細工を仕組んだのに、淑乃の予想は当たらず見事に今まで全ての苺大福が自分の胃に落ちてきた。ここまできたら最後の一つも頂いてしまおう、と腑に落ちない顔でトーマの肩を揉む大と同じくリラックスとは無縁そうな顔でされるがままのトーマを眺め淑乃は思う。

「大福残りひとつだから、次がラストね。はい」

箸を握った手を出し、二人が手を伸ばすのとほぼ同時に淑乃は確実に王様の証を握る。「せーの!」合図で手を離し、先端に王の字のあるそれを見て淑乃は無感動に「わーい王様」と呟くが、やっぱり雄叫びと悲愴にまみれる二人にはその演技も意味が無さそうだった。

「じゃあね、最後だからとっておきの命令してあげるわ」
「…お前、ほんと性悪だな」
「聞こえなーい。あ、ラスイチも頂くわね。じゃあー…二番から、一番に、キス!」

これ以上無いほど嫌な命令でしょ、さあ嫌悪感に悶え苦しみなさい!淑乃は最後の苺大福を自らの元へ引き寄せながら心の中で高笑う。「淑乃、なんだか楽しみ方を履き違えてる気がするわ」ララモンの至って冷静なぼやきに、「日頃の行いが悪いのよ!フン!」ともはや焦点のズレまくった捨て台詞を吐く淑乃はあまりに大人気ない。
(さあ、憤怒でも激高でも絶望でも何でもいらっしゃい、ぜーんぶ一蹴してやるんだから。王様の言うことは絶対!)悪い笑みを浮かべ高見の見物をしようと淑乃が二人を振り返った、瞬間。

「オイ、二番からだってよ」
「…本気か」
「しょーがねーだろ、王様命令だぜ」

予期していなかった場の温度変化に、淑乃の口から苺大福の白い粉がほろほろと溢れた。
(え?なにこれ、なんであんた達そんな冷静なの)憤怒も激高も絶望も何も無く、しいて言えば少しの緊張と照れ臭さしか醸し出ていないその空間に、淑乃は眩暈を覚えた。

「し、しかし」
「早くしろって、ほら」

顔を真っ赤にし言い淀むトーマの両肩をがっしり掴んで、大は何故か嬉々とした表情を浮かべ唇を突き出す。(ほら、じゃないわよ!)今にも苺大福が口からすぽんと飛び出してきそうになって、淑乃は慌てて自分の口を手で抑えた。傍らでララモンが「淑乃!?大丈夫!?」と慌てているが、正直全然大丈夫じゃない。

「…目を、閉じろ」
「え、やだよ。顔見とく」
「ッ!ならしない!」
「だから王様命令だって、観念しろ二番」
「く…」

(いやもう観念しなくて良いけど延々その体制を見せつけられてもね、何の得も無いのよこっちは!なんで大はそんなに自信満々なの、トーマも半端に照れてんじゃないわよ、悟りたくないわよこんな展開!馬鹿!ほんとに馬鹿!本当の意味で爆発しろ!)

「ほら、はやく。とーま」
「…っ、」

大がえらく低く、聞いたことも無いような甘い声で囁いて、トーマが真っ赤な顔で覚悟を決めたように目を閉じ唇を差し出した時、(爆発、したい、あたしが)淑乃の視界は苺大福さながらの白でホワイトアウトした。

















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